こんにちは。兵庫県姫路市の歯医者、溝井歯科医院 院長の溝井優生です。日々の診療で、患者様から非常によくいただく、切実なご質問があります。それは、「先生、歯周病は治るんですか？」というものです。歯茎から血が出る、口臭が気になる、歯がグラグラしてきた…そんな不安を抱えて来院され、歯周病と診断された方にとって、その病気が「治る」のか「治らない」のかは、最も知りたいことだと思います。

「治る」という言葉に、私たちは「風邪が治る」ように、病気になる前の完全に健康だった状態に戻ること（完治）をイメージしがちです。その意味で言えば、歯周病、特に進行してしまった歯周病（歯周炎）は、「完治」させるのが非常に難しい病気です。しかし、だからといって、諦める必要は全くありません。適切な治療と、その後のケアによって、病気の進行を食い止め、健康な状態を維持し続けること、すなわち「コントロール」することは十分に可能です。

今回は、この歯周病の「治る」という言葉の、本当の意味について。そして、私たちが目指す「コントロール」とはどのような状態なのか、そのための治療法や、なぜ治療後も継続的なケアが必要なのかについて、詳しく解説していきます。

目次

1. 歯周病とは？なぜ「治る（完治する）」と言い切れないのか
2. 【結論】「完治」はしないが、「寛解（コントロール）」は可能
3. 歯周病治療のステージ：初期段階（歯肉炎）なら「治る」
4. 進行した歯周病（歯周炎）の具体的な治療法と、そのゴール
5. なぜコントロールが一生続くのか？治療後のメンテナンスの重要性
6. まとめ

1. 歯周病とは？なぜ「治る（完治する）」と言い切れないのか

歯周病は、お口の中の細菌（歯周病菌）が引き起こす「感染症」であり、同時に、生活習慣病の一つともされています。歯磨きが不十分で、歯と歯茎の境目に歯垢（プラーク）が溜まると、まず歯茎が炎症を起こし、赤く腫れたり、出血したりします。これが初期段階の「歯肉炎（しにくえん）」です。この段階を放置すると、炎症はさらに奥深くへと進行し、歯を支えている土台である「歯槽骨（しそうこつ）」（顎の骨）を溶かし始めます。この状態が「歯周炎（ししゅうえん）」であり、一般的に「歯周病」と呼ばれるのは、この歯周炎の段階を指すことが多いです。歯周炎が進行すると、歯と歯茎の間の溝（歯周ポケット）が深くなり、歯を支える骨がどんどん失われ、最終的には歯がグラグラになって抜け落ちてしまう、というのが、この病気の恐ろしい結末です。

では、なぜこの歯周炎が「完治」しないのでしょうか。それは、風邪が治って元の健康な体に戻るのとは違い、一度溶けて失われてしまった歯槽骨は、原則として、自然に元の状態まで再生（回復）することはないからです。歯周病治療によって歯茎の炎症を抑え、引き締まった健康な状態に戻すことはできますが、その下で失われた骨の高さは、基本的には低いままです。これが、私たちが歯周病を「完治する」と断言せず、「コントロールする」病気であると表現する、最大の理由なのです。病気の原因を取り除き、進行を止めることはできても、失われた組織を完全には元に戻せない。これは、糖尿病や高血圧といった他の慢性疾患と非常に似ている性質を持っていると言えます。

2. 【結論】「完治」はしないが、「寛解（コントロール）」は可能

「完治しない」と聞くと、非常に絶望的に聞こえるかもしれません。しかし、どうか悲観しないでください。私たちが歯周病治療で目指すのは、「完治」ではなく、「寛解（かんかい）」という状態、すなわち「コントロールされた状態」に導くことです。そして、この状態を達成することは、患者様と私たちが二人三脚で取り組めば、十分に可能です。

「コントロールされた状態」とは、具体的にどのような状態でしょうか。それは、

• 歯周病菌の活動が最小限に抑えられ、病気の進行がストップしている状態。
• 歯茎の炎症（赤み、腫れ、出血）が消失し、引き締まった健康なピンク色に戻っている状態。
• 深かった歯周ポケットが浅くなり、細菌が潜む場所が減っている状態。
• 歯のグラつきが止まり（あるいは軽減し）、これ以上、骨が溶けていく心配がない状態。

を指します。この状態を達成し、維持し続けることができれば、歯周病で歯を失うリスクを劇的に減らし、生涯にわたってご自身の歯で、美味しく食事をし、楽しく会話をすることが可能になります。歯周病を「放置」した場合、歯を失うという未来が待っているのに対し、「コントロール」された場合は、ご自身の歯を維持できるという未来が待っています。この違いは、皆様の人生の質（QOL）において、天と地ほどの差があると言えるでしょう。ですから、私たちの治療のゴールは、失われた骨を取り戻すことではなく、今ある骨を、これ以上絶対に失わせないこと、そして、歯茎を健康な状態に戻すことなのです。

3. 歯周病治療のステージ：初期段階（歯肉炎）なら「治る」

ここで、非常に重要な関連情報をお伝えしなければなりません。「歯周病」と一口に言っても、その進行ステージによって、予後は大きく異なります。先ほど、「歯周炎」は完治しないとお話ししましたが、その一歩手前の、初期段階である「歯肉炎」であれば、話は別です。

歯肉炎（しにくえん）は、炎症がまだ歯茎（歯肉）だけにとどまっており、歯を支える歯槽骨が、まだ溶かされていない状態を指します。「歯磨きをすると、時々血が出る」という方の多くが、この歯肉炎の段階である可能性があります。

この歯肉炎の段階であれば、「完治」させることが可能です。 治療法は、非常にシンプルです。

1. 歯科医院での専門的なクリーニング：歯周病菌の温床となっている歯垢や、歯磨きでは取れない歯石（プラークが石灰化したもの）を、私たち歯科医師や歯科衛生士が、専用の器具を使って徹底的に除去（スケーリング）します。
2. 患者様による毎日の徹底したセルフケア：最も重要なのがこれです。私たちが、患者様一人ひとりのお口の状態に合った、正しい歯磨きの方法（ブラッシング指導：TBI）や、歯間ブラシ、デンタルフロスの使い方を、丁寧に指導させていただきます。

原因であるプラークが、この「セルフケア」と「プロフェッショナルケア」の両輪によって、お口の中から徹底的に除去されれば、歯茎の炎症は数週間で劇的に改善し、出血や腫れは治まります。骨は一切失われていないため、元の健康な状態に、100%回復（完治）することができるのです。

この事実は、「いかに早期に歯周病のサインに気づき、治療を開始するか」がいかに重要かを示しています。「たかが歯茎からの出血」と放置した結果、骨が溶け始める「歯周炎」に移行してしまえば、もう「完治」は望めなくなってしまうのです。定期検診の重要性が、ここにあります。

4. 進行した歯周病（歯周炎）の具体的な治療法と、そのゴール

では、歯肉炎の段階を超え、骨が溶け始めてしまった「歯周炎」に対しては、具体的にどのような治療を行い、「コントロールされた状態」を目指すのでしょうか。治療は、その進行度（軽度・中等度・重度）に応じて、段階的に行われます。

• ステップ1：歯周基本治療（全ての患者様が対象） これが歯周病治療の根幹であり、ゴールはこの治療で達成されることも少なくありません。
  • ① 検査：まず、歯周ポケットの深さの測定、レントゲン撮影による骨の吸収度の確認、出血の有無などを詳細に検査し、現在の状態を正確に把握します。（治療期間：1日）
  • ② プラークコントロール：これが治療の成否を分ける最も重要なステップです。患者様ご自身に、歯周病の原因がプラークであることを深くご理解いただき、それをご自身で除去するための正しいブラッシング技術（TBI）を習得していただきます。（身体的・精神的メリット：ご自身の意識と技術が向上することで、再発を防ぐ力が身につきます。デメリット：毎日の地道な努力と継続が必要です）
  • ③ スケーリング＆ルートプレーニング（SRP）：歯科医師・歯科衛生士が、歯周ポケットの奥深く、歯の根（ルート）の表面にこびりついた、細菌の塊である歯石を、専用の器具を使って徹底的に除去する処置です。ポケットが深い場合は、局所麻酔をして、痛みがない状態で行います。（治療期間：歯を4～6ブロックに分け、数回にわたって行います。週に1回通院して、1～2ヶ月程度が目安です）
    • 身体的メリット：病気の根本原因である、セルフケアでは取れない歯石を除去できます。デメリット：麻酔が切れた後、一時的に歯がしみたり、歯茎が下がって歯が長く見えたりすることがあります（これは炎症が治まり、歯茎が引き締まった「良い兆候」でもあります）。
    • 経済的メリット：ここまでの治療は、全て公的医療保険の適用内です。
• ステップ2：歯周外科治療（基本治療で改善しない重度のケースが対象） 歯周基本治療を行っても、歯周ポケットが深く残ってしまい、清掃が困難な場合に、適応となることがあります。
  • ① フラップ手術（歯肉剥離掻爬術）：麻酔をした上で、歯茎をメスで切開して剥がし、歯の根の表面を直視できる状態にします。そして、基本治療では取り切れなかった奥深くの歯石や、炎症で汚染された歯茎の組織を、徹底的に除去し、歯茎を縫い合わせます。（治療期間：手術自体は1回（1～2時間程度）、その後、1～2週間後に抜糸）
    • 身体的メリット：基本治療では不可能なレベルまで、汚染物質を徹底的に除去でき、歯周ポケットを劇的に浅くできる可能性があります。デメリット：外科手術であるため、術後の痛みや腫れを伴います。歯茎が下がるため、知覚過敏や、見た目（歯が長く見える）の問題が出やすくなります。
    • 経済的メリット：この手術も、原則として保険適用内で受けることが可能です。

これらの治療を通じて、歯周ポケットを浅くし、細菌が住みにくい環境を整え、患者様ご自身で清掃可能な状態（コントロールされた状態）に導くことが、歯周炎治療のゴールです。

5. なぜコントロールが一生続くのか？治療後のメンテナンスの重要性

ステップ4の治療によって、歯茎が引き締まり、出血も止まり、歯周ポケットも浅くなったとします。「これで、やっと歯周病が治った！もう歯医者に通わなくていい！」と、残念ながら、そうはなりません。ここからが、その「コントロールされた状態」を維持するための、生涯にわたる第2の戦いの始まりです。これが、「コントロールは一生続く」と言われる理由です。

なぜなら、一度歯周炎になったということは、

1. 歯周病菌が、お口の中に依然として存在している（ゼロにはできない）
2. 患者様ご自身が、歯周病にかかりやすい体質である（遺伝的要因や、免疫力の問題）
3. 一度失われた骨は戻っておらず、健康な人に比べて、歯を支える土台が弱い状態である
4. 治療でポケットが浅くなったとはいえ、毎日のセルフケアで、100%完璧にプラークを除去し続けることは、ほぼ不可能である

からです。治療が完了して、油断してセルフケアを怠ったり、歯科医院から足が遠のいたりすれば、残った細菌は、磨き残しをエサに再び増殖を始め、数ヶ月もすれば、容易に「再発」してしまいます。

この再発を防ぎ、コントロールされた状態を永続的に維持するために、絶対に不可欠なのが、治療後の「定期的なメンテナンス（SPT：サポーティブ・ペリオドンタル・セラピー）」です。 これは、患者様の「セルフケア（毎日の歯磨き）」と、私たち歯科医院での「プロフェッショナルケア（専門的なクリーニング）」の、両輪で成り立っています。

• メンテナンスの頻度：患者様のリスク（歯周病の重症度、清掃状態、喫煙の有無など）に応じて異なりますが、一般的に1～4ヶ月に1回（最も多いのは3ヶ月に1回）のペースでの来院をお願いしています。
• メンテナンスの内容：歯周ポケットの深さや出血のチェック、プラークの染め出しによる磨き残しの確認と、セルフケアの再指導、そして、ご自身では取り除けないプラーク（バイオフィルム）や、新たについてしまった歯石を、専門的な器具で徹底的にクリーニング（PMTC）します。
• 身体的・精神的メリット：定期的にプロの手でクリーニングすることで、お口の中が非常にさっぱりとし、快適な状態を維持できます。また、「再発していないか」という不安を解消し、専門家によるチェックを受けているという「安心感」を得ることができます。
• 経済的メリット：この定期メンテナンスも、保険適用で受けることができます。1回あたTりの費用は数千円程度です。この費用を惜しんでメンテナンスを中断し、もし歯周病が再発して、再び大掛かりな治療が必要になったり、最終的に歯を失ってインプラント（数十万円）や入れ歯を入れることになったりする経済的・身体的・精神的な負担と比べれば、定期メンテナンスがいかに「費用対効果の高い、未来への投資」であるか、お分かりいただけるかと思います。

6. まとめ

「歯周病は治るんですか？」という、皆様の切実なご質問。その答えは、

1. 初期段階の「歯肉炎」（骨が溶けていない状態）であれば、「完治」は可能。 だからこそ、早期発見・早期治療（定期検診）が何よりも重要。
2. 骨が溶けてしまった「歯周炎」は、元の状態に戻る「完治」はしない。
3. しかし、適切な治療（歯周基本治療や、場合によっては外科治療）によって、病気の進行を止め、健康な状態を維持する「コントロール（寛解）」は十分に可能。
4. この「コントロールされた状態」を維持するためには、治療が完了した後も、生涯にわたる「セルフケア（毎日の歯磨き）」と「プロフェッショナルケア（定期メンテナンス）」が、絶対に不可欠。

ということです。「治らない病気だ」と悲観的になる必要は全くありません。歯周病は、正しい知識を持ち、患者様ご自身が「自分の歯は自分で守る」という強い意志を持って、私たち歯科医院と固いパートナーシップを築いていただければ、決して怖くない、「うまく付き合っていける」病気なのです。

兵庫県姫路市の溝井歯科医院では、患者様一人ひとりのお口の状態と、ライフスタイルに寄り添い、歯周病の根本治療から、その後の長期的なメンテナンスまで、責任を持ってサポートさせていただきます。歯茎からの出血や口臭など、どんな些細なサインでも、放置せずに、まずはお気軽にご相談ください。一緒に、あなたの大切な歯を、一本でも多く、生涯にわたって守り抜いていきましょう。