こんにちは。兵庫県姫路市の歯医者、溝井歯科医院 院長の溝井優生です。インプラント治療は、失った歯の機能と見た目を美しく回復できる、非常に優れた治療法です。当院でも、この治療を希望される患者様から、多くのご相談をいただきます。その際、治療計画のご説明の中で、私たちが「歯科用CTによる精密検査を行います」とお話しすると、患者様から「以前、歯医者で撮った大きなレントゲン(パノラマレントゲン)とは違うのですか?」「なぜ、わざわざCTまで撮る必要があるのでしょうか?」といったご質問を受けることが少なくありません。
高額な治療になるからこそ、検査項目一つひとつにご納得いただきたい、そのお気持ちは当然のことです。結論から申し上げますと、この歯科用CTによる撮影は、現代のインプラント治療を安全に、そして確実に行う上で、「省略することのできない、必要不可欠な検査」です。決して「オプション」や「念のため」の検査ではありません。今回は、なぜインプラント治療にCT撮影が絶対に必要とされているのか、従来のレントゲンとは何が違うのか、そして、それが患者様の「安全性」をいかに高めるのかについて、詳しく、そして分かりやすく解説していきます。
目次
- 従来のレントゲン(2D)と歯科用CT(3D)の決定的な違い
- CTでなければ見えないもの①:インプラントの土台となる「骨の厚みと密度」
- CTでなければ見えないもの②:絶対に避けるべき「神経と血管」の正確な位置
- 安全性を飛躍的に高める「サージカルガイド」への応用
- CT撮影の被ばく線量と費用:安全性という「価値」との比較
- まとめ
1. 従来のレントゲン(2D)と歯科用CT(3D)の決定的な違い
皆様が歯科医院で「お口全体のレントゲン」として撮影したご経験があるのは、多くの場合、「パノラマレントゲン」と呼ばれるものです。このレントゲンは、お口全体を一枚の平面的な写真に写し出す、非常に優れた「2D(二次元)」の検査方法です。歯の本数や、大きなむし歯、歯周病による骨の吸収(高さ)などを、大まかに把握するのに適しています。しかし、この2Dレントゲンには、インプラント治療を行う上で、一つだけ「致命的な欠点」があります。それは、「奥行き(厚み)」の情報が全く分からない、ということです。パノラマレントゲンは、例えるなら、立体的なビルを真正面から撮影しただけの「写真」です。ビルの高さや幅は分かっても、その「奥行き」がどれくらいあるのかは、その写真一枚からは決して分かりません。インプラント治療は、顎の骨という「立体的な構造物」の中に、インプラントという「立体的な人工歯根」を埋め込む、三次元(3D)の外科手術です。奥行きが分からない、平面的な地図だけを頼りに、立体的な手術を行うことが、どれほど危険なことか、お分かりいただけるかと思います。そこで登場するのが「歯科用CT(コーンビームCT:CBCT)」です。CTは、対象物をあらゆる角度から撮影し、そのデータをコンピューターで再構成することで、お口の中を「3D(三次元)」で、ありのままに再現することができます。顎の骨を、まるで輪切りにしたり、斜めから透視したりするように、0.1mm単位で、あらゆる断面を自由自在に観察することが可能になるのです。この「2D」と「3D」の違いこそが、治療の安全性を左右する、決定的な情報の差となります。
2. CTでなければ見えないもの①:インプラントの土台となる「骨の厚みと密度」
インプラント治療が成功するための大前提は、埋め込むインプラント体が、360度、十分な量の健康な骨によって、しっかりと支えられていることです。従来の2Dレントゲンでも、歯茎から骨の頂点までの「骨の高さ」はある程度分かります。しかし、最も重要な「骨の厚み(幅)」は、CTでしか計測できません。例えば、パノラマレントゲン上では、骨の高さが十分にあるように見えても、CTで輪切りにして確認してみると、実際には、まるでナイフの刃先のように薄く、ペラペラな骨(ナイフリッジ)であった、というケースは非常に多く存在します。もし、この「薄い骨」であることに気づかず、2Dレントゲンの情報だけを頼りにインプラント手術を行ってしまったら、どうなるでしょうか。インプラントが骨を突き破ってしまったり、骨の外側に露出してしまったり、あるいは、術後すぐに骨の吸収が起きて、インプラントが脱落してしまったりするでしょう。CT撮影は、まず「そもそも、インプラントを安全に埋め込むための、十分な骨の厚みが存在するか?」という、治療の可否を判断するための、最初の、そして最も重要な情報を提供してくれます。さらに、CTは骨の「密度(硬さ)」までをも、ある程度可視化することができます。骨が、硬く緻密な「皮質骨」でできているのか、あるいは、スカスカで柔らかい「海綿骨」でできているのか。この骨の質によって、使用するインプラントの種類や、手術の方法、そして、手術後に骨と結合するまでの治癒期間(インテグレーション期間)の予測も変わってきます。CT撮影とは、インプラントという家を建てる前の、徹底した「地盤調査(地質調査)」そのものなのです。
3. CTでなければ見えないもの②:絶対に避けるべき「神経と血管」の正確な位置
インプラント治療において、CT撮影が「安全性の確保に不可欠」と言われる、最大の理由がこれです。私たちの顎の骨の中は、空っぽではありません。そこには、絶対に傷つけてはならない、非常に重要な「神経」や「血管」が走行しています。
- 下の奥歯(下顎)の場合 下の顎の骨の中には、「下顎管(かがくかん)」という太い管が通っており、その中を「下歯槽神経(かしそうしんけい)」という、下唇や顎の皮膚の感覚を司る、非常に太くて重要な神経が走っています。従来の2Dレントゲンでは、この下顎管は、ぼんやりとした黒い影のようにしか映らず、骨のどの位置(頬側か、舌側か、真ん中か)を走っているのか、その正確な三次元的な位置を知ることはできません。もし、CTを撮影せずに、この神経の位置を勘や経験だけに頼って手術を行い、万が一、インプラントのドリルでこの神経を損傷してしまうと、手術した側の下唇や顎の感覚が、生涯にわたって麻痺してしまう(触っても感覚がない、熱さや冷たさが分からない、よだれが垂れても気づかないなど)という、取り返しのつかない重大な医療事故に繋がります。
- 上の奥歯(上顎)の場合 上の奥歯の上方には、「上顎洞(じょうがくどう)」と呼ばれる、鼻と繋がっている大きな空洞(副鼻腔)が存在します。この空洞までの骨の高さ(厚み)が、どれくらい残っているのか。2Dレントゲンでは、正確な距離を測ることは困難です。もし、この骨の薄さに気づかずにインプラントを埋め込むと、インプラントが上顎洞の中に突き抜けてしまい、重篤な感染症である「副鼻腔炎(蓄膿症)」を引き起こす原因となります。
CT撮影は、これらの危険な解剖学的構造物(神経や空洞)の「正確な3Dマップ」を、私たち術者に提供してくれます。このマップがあるからこそ、私たちは、これらの危険地帯を確実に避け、安全な領域に、適切な長さ・太さのインプラントを埋め込むための、ミリ単位の精密な治療計画を立てることができるのです。
4. 安全性を飛躍的に高める「サージカルガイド」への応用
CT撮影のメリットは、単に「診断」にとどまりません。CTによって得られた患者様の精密な3Dデータは、「サージカルガイド(または、ガイデッドサージェリー)」という、インプラント手術の安全性を飛躍的に高めるための、最先端の技術に応用されます。
これは、CTデータとお口の型取りのデータを、コンピューター上で重ね合わせ、画面上で、最も安全で、最も理想的なインプラントの埋入位置・角度・深さを、ミクロン単位でシミュレーション(計画)します。そして、そのシミュレーション通りの手術を、現実世界で寸分違わず実行するために、3Dプリンターを用いて作製されるのが、「サージカルガイド」という、患者様専用のオーダーメイドの手術用マウスピースです。このガイドには、計画通りの角度で、ドリルを導くための「穴」が空いています。
- サージカルガイドのメリット(身体的・精神的)
- 安全性・確実性の向上:術者は、このガイドをお口の中に装着し、開けられた穴に沿ってドリルを進めるだけです。これにより、術者の勘や経験、フリーハンドの技術に頼ることなく、コンピューターが計画した通りの、最も安全で正確な位置に、インプラントを導くことができます。これにより、前述した神経麻痺や上顎洞穿孔といった、重大な事故のリスクを、限りなくゼロに近づけることができます。これは、患者様にとって、これ以上ない身体的・精神的な安心材料となるでしょう。
- 低侵襲(身体的負担の軽減):正確な位置がガイドされるため、歯茎を切開する範囲を最小限にしたり、場合によっては切開しない「フラップレス手術」が可能になったりすることがあります。これにより、術後の痛みや腫れを大幅に軽減し、治癒期間を短縮できるという、大きな身体的メリットにも繋がります。
この、安全で、低侵襲で、予知性の高い(計画通りの結果が得られやすい)「ガイデッドサージェリー」は、言うまでもなく、手術前のCT撮影データがなければ、絶対に実現不可能な治療法なのです。
5. CT撮影の被ばく線量と費用:安全性という「価値」との比較
ここまでCTの重要性をお話しすると、患者様からは、「でも、CTって、被ばく線量や費用が心配…」というお声が必ず返ってきます。この、デメリットとなりうる2点についても、正確にお話しします。
- 被ばく線量(身体的デメリット?) 患者様が「CT」と聞いてイメージされるのは、病院にある、大きなトンネル型で、全身を撮影する「医科用CT」かもしれません。医科用CTは、確かに撮影範囲も広く、放射線量も比較的高くなります。しかし、私たちが歯科で使用する「歯科用CT(コーンビームCT)」は、撮影範囲がお口周りに限定されており、医科用CTとは構造も異なるため、被ばく線量は、医科用CTの数十分の1から、場合によっては百分の一程度と、非常に低く抑えられています。具体的な数値で言えば、歯科用CT 1回の撮影による被ばく線量は、私たちが日常生活で、自然界(宇宙や大地)から1年間に浴びる自然放射線量(世界平均で約2400μSv、日本で約2100μSv)よりも、はるかに少ないレベルです。例えば、東京からニューヨークへ飛行機で往復する際に浴びる宇宙線(約200μSv)よりも、少ない場合すらあります。 このように、歯科用CTの被ばくによる身体的なリスクは、「ほぼゼロに等しい」と言えるレベルです。
- 費用(経済的デメリット) はい、これは明確なデメリットです。CT撮影は、保険適用のパノラマレントゲンとは異なり、インプラント治療のための検査としては、公的医療保険が適用されない「自由診療(自費診療)」となります。費用は、歯科医院によって異なりますが、一般的に1万円~3万円程度の追加費用が、治療費とは別にかかります。 しかし、この「数万円」という初期投資と、CT撮影を怠ったことで起こりうる「最悪の事態」とを、天秤にかけてみてください。万が一、神経麻痺という、生涯残る後遺症を負ってしまった場合の、身体的・精神的・経済的な損失。あるいは、インプラントが骨と結合せずに失敗し、再手術が必要になった場合の、追加の治療費(数十万円)と、治療期間。これらと比較すれば、手術前に、安全性を確実なものにするための数万円の検査費用が、いかに「価値のある、必要不可欠な投資」であるか、賢明な皆様なら、きっとご理解いただけることと思います。
6. まとめ
インプラント治療における、歯科用CT撮影の重要性について、ご理解いただけましたでしょうか。
- 従来のレントゲン(2D)は「平面」しか見えず、インプラントという「立体」の手術には、情報が絶対的に不足している。
- 歯科用CT(3D)は、インプラントの土台となる「骨の厚み・密度」を正確に計測し、治療の可否を診断するために不可欠。
- CTは、「神経」や「空洞」の正確な3Dマップを提供し、それらを損傷するという重大な医療事故を未然に防ぐ、最大の安全装置である。
- CTデータは、「サージカルガイド」という高精度な手術器具の作製に応用でき、手術の安全性と正確性を飛躍的に向上させ、患者様の負担(痛み・腫れ)を軽減する。
- 歯科用CTの被ばく線量は、飛行機移動などと比べても、ごくわずかであり、身体的リスクは無視できるレベル。
- 数万円の検査費用は、将来起こりうる、取り返しのつかない失敗や、再治療のコストを防ぐための、最も重要で、最も価値のある「安全投資」である。
インプラント治療の成功は、「いかに安全に、計画通りに手術を行うか」にかかっています。私たち溝井歯科医院が、インプラント治療をご希望される全ての患者様に、CT撮影を「標準検査」としてご提案しているのは、ひとえに、患者様の安全を何よりも最優先し、予知性の高い(成功が予測できる)治療をご提供したいという、医療人としての強い信念があるからです。兵庫県姫路市で、安全なインプラント治療をお考えの方は、ぜひ一度、当院にご相談ください。