こんにちは。兵庫県姫路市の歯医者、溝井歯科医院 院長の溝井優生です。日々の診療で、特にシニア世代の患者様から、長年お使いの「入れ歯」に関する切実なお悩みを、本当に多くお伺いします。
「総入れ歯がガタついて、痛くて硬いものが全く噛めない」 「食事中に外れそうで、人前で話したり笑ったりするのが怖い」 「部分入れ歯のバネが見えるのが嫌だ」
こうしたお悩みに対し、インプラント治療は非常に有効な解決策です。しかし、失った歯の本数が多い場合、「全ての歯をインプラントにするのは、手術の負担も、費用の負担も大きすぎる…」と、治療を諦めてしまう方も少なくありません。
もし、あなたが「入れ歯の不便さ」と「インプラントの負担の大きさ」の両方でお悩みなら、ぜひ知っていただきたい、第三の選択肢があります。それが、「インプラントオーバーデンチャー(IOD)」です。これは、従来の入れ歯の利便性と、インプラントの固定力を融合させた、まさに“良いとこ取り”とも言える治療法です。今回は、このインプラントオーバーデンチャーが、どのような治療法で、どのような素晴らしいメリットがあるのか、そして、知っておくべきデメリット(注意点)について、詳しく解説していきます。
目次
- そもそも「インプラントオーバーデンチャー(IOD)」とは?
- 絶大な安定感!従来の入れ歯と比べた場合のメリット
- 体と費用に優しい!全ての歯をインプラントにする治療との比較メリット
- 始める前に知っておくべき、インプラントオーバーデンチャーのデメリットと注意点
- インプラントオーバーデンチャーは、こんな方におすすめです
- まとめ
1. そもそも「インプラントオーバーデンチャー(IOD)」とは?
インプラントオーバーデンチャー(Implant OverDenture、略してIOD)とは、一言で言えば、「最小限のインプラントを土台(支柱)にして、取り外し式の入れ歯(義歯)を、アタッチメントで強力に固定する」治療法です。
従来の総入れ歯は、歯茎(粘膜)の上に乗っているだけで、何の固定源もありませんでした。だから、食事や会話のたびに、ズレたり、浮き上がったり、ガタついたりしていたのです。
インプラントオーバーデンチャーは、この根本的な問題を解決します。まず、顎の骨に、最少で2本~4本程度のインプラント(チタン製の人工歯根)を埋め込みます。このインプラントが、骨の中でしっかりと固定され、強力な「アンカー(碇)」の役割を果たします。そして、インプラントの頭の部分と、入れ歯の裏側の部分に、それぞれ「アタッチメント」と呼ばれる、連結するための装置を取り付けます。このアタッチメントには、洋服のホック(スナップボタン)のような「ボールタイプ」や「ロケータータイプ」、あるいは「磁石(マグネット)タイプ」、インプラント同士をバーで連結する「バータイプ」など、いくつかの種類があります。患者様は、このアタッチメントによって、入れ歯をご自身の顎に「カチッ」と、あるいは「ピタッ」と、はめ込むことができるようになります。つまり、従来の入れ歯が、歯茎の上に「乗っている」だけだったのに対し、インプラントオーバーデンチャーは、インプラントによって**顎の骨に「固定されている」**状態になるのです。これが、快適性の決定的な違いを生み出します。もちろん、入れ歯自体はご自身で簡単に取り外すことができるため、日々のお手入れ(清掃)も非常に簡単です。
2. 絶大な安定感!従来の入れ歯と比べた場合のメリット
では、従来の入れ歯(特に総入れ歯)と比較した場合、インプラントオーバーデンチャー(IOD)には、どのようなメリットがあるのでしょうか。その差は、患者様の生活の質(QOL)を劇的に変えるほど大きなものです。
- ① 圧倒的な安定性による「噛む力」の回復 これが最大のメリットです。アタッチメントでインプラントに固定されているため、食事中にガタついたり、ズレたり、浮き上がったりすることが、まずありません。 従来の総入れ歯では難しかった、お煎餅、リンゴの丸かじり、お漬物、ステーキのような硬い食べ物、あるいは、お餅やタコのような粘着性・弾力性のある食べ物でも、自分の歯に近い感覚で、しっかりと噛み砕くことができます。天然の歯の咀嚼能力を100%とすると、従来の総入れ歯では10~20%程度しか回復できないのに対し、IODでは60~80%近くまで回復できるとも言われています。しっかりと噛めることは、消化を助け、全身の健康維持にも繋がります(身体的メリット)。
- ② 「外れるかも」という精神的ストレスからの解放 従来の入れ歯をお使いの方の多くが、「食事中や、人前で話している時、大笑いした時に、入れ歯が外れたらどうしよう…」という、絶え間ない不安を抱えています。IODは、この精神的なストレスから、あなたを完全に解放します(精神的メリット)。もう、口元を隠して話したり、食べたいメニューを我慢したりする必要はありません。ご家族やご友人との旅行や会食を、心から楽しむことができるようになります。
- ③ 味覚の改善と、発音の明瞭化 特に、上の総入れ歯は、吸着力を得るために、口の天井部分(口蓋)を、プラスチックで広く覆う必要があります。これが、食べ物の味や、温かさ・冷たさを感じにくくする、大きな原因でした。IODの場合、インプラントが支えとなるため、この口蓋部分を大きくくり抜いた、U字型の快適な入れ歯(オープンパレート)にすることが可能です。これにより、食べ物本来の味や食感をダイレクトに感じられるようになり、食事が格段に美味しくなります。また、口蓋を覆わないことで、舌の動きが自由になり、発音(特にサ行・タ行など)も明瞭になります。
- ④ 顎の骨が痩せるのを防ぐ 歯がなくなると、その部分の骨は刺激がなくなるため、時間と共にどんどん痩せて(吸収して)いきます。従来の入れ歯は、この骨の吸収を防ぐことができず、骨が痩せれば、さらに入れ歯が合わなくなる、という悪循環に陥ります。しかし、IODは、インプラントが骨に直接埋め込まれているため、噛む刺激がインプラントを通じて骨に伝わり、骨が痩せていくのを防ぐ効果が期待できます。
3. 体と費用に優しい!全ての歯をインプラントにする治療との比較メリット
「インプラントで固定するなら、いっそ全部の歯を、固定式のインプラント(インプラントブリッジ)にした方が良いのでは?」と思われる方もいらっしゃるでしょう。もちろん、それは理想的な治療法の一つです。しかし、その治療法と比較した場合にも、インプラントオーバーデンチャー(IOD)には、特にシニア世代の方にとって、大きなメリットが存在します。
- ① 経済的メリット(費用の軽減) これが、IODが選ばれる非常に大きな理由です。全ての歯を固定式のインプラントブリッジ(All-on-4などを含む)にする場合、少なくとも片顎で4本~10本以上、非常に多くのインプラントを埋め込む必要があり、それに伴い、治療費も数百万円単位と、非常に高額になります。一方、IODは、最小限(下顎で2本、上顎で4本程度)のインプラントで、劇的な機能回復が可能です。使用するインプラントの本数が少ないため、治療にかかる総費用(経済的負担)を、何分の一にも大幅に抑えることができるのです。
- ② 身体的メリット(手術の負担軽減) インプラントの本数が少ないということは、外科手術の範囲も小さく、手術時間も短くなることを意味します。これにより、術後の痛みや腫れといった、患者様の身体的負担(侵襲)を、最小限に抑えることができます。ご高齢の方や、糖尿病・高血圧などの全身疾患をお持ちで、長時間の大きな手術には不安がある、という方にとっても、IODは、より安全に受け入れやすい治療法と言えます。(治療期間も、結果的に短縮できる可能性があります)
- ③ 清掃性・メンテナンス性の高さ これが、シニア世代にとって、見落とされがちな、しかし非常に重要なメリットです。全ての歯を固定式のインプラントブリッジにすると、その構造は複雑で、ご自身での清掃(歯磨き)が非常に難しくなります。清掃が不十分だと、インプラント周囲炎のリスクが高まります。一方、IODは、患者様ご自身で「取り外す」ことができるため、入れ歯そのものを、手にとって隅々まで簡単に洗浄できます。また、お口の中に残ったインプラントの頭の部分も、鏡を見ながら簡単に磨くことができます。この清掃のしやすさは、インプラントを長持ちさせる上で、最強の武器となります。さらに、将来、万が一、介護が必要な状態になった場合でも、ご家族や介護士の方が、非常に簡単に清掃・管理できるという点は、将来を見据えた上で、計り知れないメリットと言えるでしょう。
4. 始める前に知っておくべき、インプラントオーバーデンチャーのデメリットと注意点
ここまで、IODの素晴らしいメリットを強調してきましたが、もちろん、どんな治療法にもデメリットや注意点は存在します。誠実な医療を提供するために、それらについても、正直にお話ししなければなりません。
- ① 外科手術が必要である(身体的デメリット) 最小限とはいえ、インプラントを埋め込むための外科手術が必要です。高血圧や糖尿病、骨粗しょう症(特にBP製剤の服用)など、全身疾患をお持ちの方は、手術のリスクが伴うため、かかりつけ医との緊密な連携(医科歯科連携)のもと、手術が可能かどうかを慎重に判断する必要があります。
- ② 公的医療保険が適用されない(経済的デメリット) インプラント治療そのものと同様、インプラントオーバーデンチャーも、公的医療保険が適用されない「自由診療(自費診療)」となります。そのため、保険適用の入れ歯を作製する場合と比べれば、当然ながら、費用は高額になります(数十万円~)。ただし、前述の通り、全ての歯をインプラントにするよりは、はるかに安価です。
- ③ 治療期間が比較的長い(時間的デメリット) インプラントを埋め込む手術を行った後、そのインプラントが顎の骨としっかりと結合するまで、通常3ヶ月~6ヶ月程度の「治癒期間」を待つ必要があります。この期間中は、仮の入れ歯を使用していただき、インプラントに過度な負担がかからないように過ごしていただくことになります。すぐに完成する治療ではない、という点はご理解いただく必要があります。
- ④ アタッチメントの消耗とメンテナンス(経済的・身体的デメリット) IODは、「入れ歯」であることには変わりありません。そのため、毎日ご自身で取り外し、清掃する必要があります。「24時間、自分の歯」という感覚を求める方には、固定式のブリッジの方が向いています。また、最大の注意点として、固定源である**「アタッチメント」は、消耗品である**、ということです。ボールタイプのゴムのリング(Oリング)や、磁石の磁力などは、長年の使用によって、摩耗したり、劣化したりして、徐々に緩んできます。この緩みを放置すると、入れ歯が動く原因になります。そのため、数年ごとに、この消耗したアタッチメントを交換する必要があり、その都度、部品代や調整費といった、ランニングコスト(経済的デメリット)がかかります。また、インプラント自体を、インプラント周囲炎から守るために、歯科医院での定期的なメンテナンス(検診・クリーニング)が、生涯にわたって不可欠です(身体的デメリット)。
5. インプラントオーバーデンチャーは、こんな方におすすめです
これまでのメリット・デメリットを踏まえると、インプラントオーバーデンチャー(IOD)は、特に以下のようなお悩みを持つ方に、自信を持っておすすめできる治療法です。
- 現在、総入れ歯(特に下顎)をお使いで、ガタつき、痛み、外れやすさに、心底困っている方。
- 硬いものやお餅を、もう一度、思いっきり噛んで食べたいと願っている方。
- 人前での食事や会話で、入れ歯が外れる不安から解放されたい方。
- 上の総入れ歯の、口蓋を覆う違和感や、味のしにくさから解放されたい方。
- 全ての歯をインプラントにしたいが、費用面や、手術の負担が大きすぎて、諦めている方。
- ご高齢で、将来的な清掃のしやすさ(メンテナンス性)も重視したい方。
特に、下顎の総入れ歯は、舌の動きなどで、非常に安定しにくいものです。下顎にたった2本のインプラントを入れるだけでも、その安定性は劇的に向上し、多くの患者様が「人生が変わった」とまでおっしゃってくださいます。
6. まとめ
「入れ歯の悩み」と、「全顎インプラントの負担」。その両方を、非常に現実的かつ効果的に解決しうる選択肢、それが「インプラントオーバーデンチャー(IOD)」です。
- 最小限(2~4本)のインプラントを土台に、取り外し式の入れ歯を強力に固定する治療法。
- 従来の入れ歯と比べ、「噛む力」「安定性」「味覚」「発音」「精神的な安心感」が劇的に向上する。
- 全ての歯をインプラントにする治療と比べ、「費用(経済的負担)」と「手術(身体的負担)」を大幅に軽減できる。
- ご自身で取り外して清掃できるため、メンテナンス性に優れ、介護が必要な将来も安心。
- ただし、外科手術であり、自由診療であること、そして、アタッチメントの交換や定期メンテナンスが不可欠である、という注意点も存在する。
「もう年だから」「入れ歯だから仕方ない」と、食べる喜びや、笑う楽しみを諦めてしまう必要は、全くありません。あなたの今のお悩み、そしてこれからの人生に、インプラントオーバーデンチャーという選択肢が、どれほど大きな価値をもたらすか。ぜひ一度、私たち溝井歯科医院にご相談ください。兵庫県姫路市で、入れ歯やインプラントにお悩みの方、一人ひとりに最適な、オーダーメイドの治療計画をご提案させていただきます。