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妊娠性歯肉炎って何?妊婦さんの口腔ケア完全ガイド

こんにちは。兵庫県姫路市の歯医者、溝井歯科医院 院長の溝井優生です。ご懐妊、誠におめでとうございます。新しい命の誕生を待つ、喜びと期待に満ちた特別な日々をお過ごしのことと思います。その一方で、ご自身の体調の大きな変化に、戸惑いや不安を感じることも多いのではないでしょうか。特に、お口の中のトラブルで来院される妊婦さんは少なくありません。

「つわりがひどくて、歯磨きが辛い…」 「最近、歯磨きをすると、必ず歯茎から血が出るようになった」 「歯茎が赤く腫れぼったくて、ムズムズする感じがする」

もし、このような症状に心当たりがあるなら、それは「妊娠性歯肉炎(にんしんせいしにくえん)」と呼ばれる、妊娠期に特有の歯茎の炎症かもしれません。「妊娠中だから仕方ない」「出産すれば治るだろう」と軽く考えてしまいがちですが、実は、このお口のトラブルを放置してしまうことが、お母さんご自身の将来の健康だけでなく、お腹の赤ちゃんの健康にも、深刻な影響を及ぼす可能性があることが分かってきています。今回は、この「妊娠性歯肉炎」とは一体何なのか、なぜ起こるのか、そして、大切な赤ちゃんとお母さんご自身のために、今すぐ始めるべき口腔ケアについて、詳しく解説していきます。

目次

  1. 妊娠性歯肉炎とは?なぜ妊娠中に起こりやすいのか
  2. 「歯磨きすると血が出る」は危険信号?妊娠性歯肉炎の主な症状
  3. 見過ごし厳禁!妊娠性歯肉炎を放置する母子への深刻なリスク(早産・低出生体重児)
  4. 「つわり」で歯磨きが辛い…そんな時の口腔ケア対処法
  5. 妊婦さんこそ歯科医院へ!安定期に受けるべき「プロフェッショナルケア」
  6. まとめ

1. 妊娠性歯肉炎とは?なぜ妊娠中に起こりやすいのか

妊娠性歯肉炎とは、その名の通り、妊娠期に発症、あるいは悪化しやすい歯茎の炎症(歯肉炎)のことです。まず、大前提としてご理解いただきたいのは、妊娠そのものが、歯肉炎の「直接的な原因」ではない、ということです。歯肉炎や歯周病の根本的な原因は、あくまで「プラーク(歯垢)」という、細菌の塊です。

では、なぜ妊娠中に、特に歯茎のトラブルが増えるのでしょうか。それには、妊娠期特有の、大きく分けて3つの理由があります。

  1. 女性ホルモンの劇的な増加 妊娠中は、「エストロゲン」や「プロゲステロン」といった女性ホルモンの分泌量が、劇的に増加します。実は、歯周病菌の中には、この女性ホルモンを“栄養源”として、爆発的に増殖する種類(プレボテラ・インターメディアなど)が存在するのです。また、これらのホルモンは、歯茎の血管を拡張させ、炎症反応を過敏にする働きもあります。そのため、普段であれば問題にならないような、ごくわずかなプラーク(細菌)に対しても、歯茎が過剰に反応し、赤く腫れたり、出血したりしやすくなります。
  2. つわりによる口腔ケアの悪化 妊娠初期の「つわり」は、多くの方が経験する辛い症状です。「吐きづわり」の方は、歯ブラシを口に入れることすら刺激になり、気持ち悪くなってしまうため、どうしても歯磨きが不十分になりがちです。また、「食べづわり」の方は、空腹になると気持ち悪くなるため、ダラダラと「ちょこちょこ食べ」をしてしまうことが増えます。これにより、お口の中が汚れやすく、酸性の状態が長く続くため、プラークが蓄積しやすい環境になってしまいます。
  3. 唾液の性質の変化 妊娠中は、ホルモンの影響で、唾液の分泌量が減少したり、唾液が酸性に傾いたり、ネバネバした性質(粘稠性が高い)に変化することがあります。唾液には、お口の中の汚れを洗い流す「自浄作用」や、酸を中和する「緩衝作用」といった大切な働きがありますが、その働きが低下してしまうのです。

これらの要因が複合的に絡み合い、妊娠中は、ご自身のせいではなく、生理的に「歯肉炎・歯周病が、極めて発症・悪化しやすい時期」である、ということを、まずご理解いただくことが大切です。

2. 「歯磨きすると血が出る」は危険信号?妊娠性歯肉炎の主な症状

では、妊娠性歯肉炎になると、具体的にどのような症状が現れるのでしょうか。ご自身のお口の中と照らし合わせて、チェックしてみてください。

  • 歯磨きや、りんごなどをかじった時に、歯茎から簡単に出血する これが、最も分かりやすく、最も多いサインです。「血が出るのが怖いから」と、その部分の歯磨きを避けてしまうと、さらにプラークが溜まり、炎症が悪化するという悪循環に陥ります。出血は、「そこが汚れていますよ」「炎症が起きていますよ」という、体からの重要な危険信号(アラーム)なのです。
  • 歯茎が、赤く(あるいは、赤紫色に)腫れぼったくなる 健康な歯茎は、引き締まった薄いピンク色をしていますが、炎症が起こると、血流がうっ滞し、赤くブヨブヨと腫れた状態になります。特に、歯と歯の間の歯茎(歯間乳頭)が、丸く膨らんだようになるのが特徴的です。
  • 歯茎がムズムズする、あるいは痛む 炎症が強くなると、歯茎に違和感や、触れると痛む「圧痛(あっつう)」を感じるようになります。
  • 口臭が強くなる 歯周病菌が活発に活動し、出血や膿(うみ)が混じることで、お口の中の臭いが強くなることがあります。
  • 妊娠性エプーリス(妊娠性腫瘤) 稀ではありますが、炎症が局所的に非常に強くなった結果、歯茎がコブのように大きく膨らんでくる良性の腫瘍(しゅりゅう)ができることもあります。多くは出産後に自然に小さくなりますが、食事の妨げになる場合は、切除することもあります。

これらの症状は、「妊娠中だから仕方ない」と我慢するものではありません。これらはすべて、お口の中の細菌が引き起こしている「病気」のサインであり、適切なケアと治療によって、改善させることができるのです。

3. 見過ごし厳禁!妊娠性歯肉炎を放置する母子への深刻なリスク

「たかが歯茎の炎症でしょ?」「出産したら、ホルモンバランスが戻って、自然に治るんでしょう?」…もし、あなたがそのように軽く考え、妊娠性歯肉炎を放置してしまったとしたら、それは、お母さんご自身と、お腹の赤ちゃんにとって、非常に大きなリスクを抱え込むことになります。

  • お母さんへのリスク:歯周炎への進行 歯肉炎は、まだ炎症が「歯茎」だけにとどまっており、歯を支える「骨(歯槽骨)」は溶けていない状態です。この段階であれば、適切なケアで、元の健康な歯茎に回復(完治)させることが可能です。しかし、この歯肉炎を放置し、炎症が歯茎の奥深くに進行すると、歯を支えている顎の骨を溶かし始める「歯周炎」へと移行してしまいます。歯周炎にまで進行してしまうと、一度溶けた骨は、原則として、自然には元に戻りません。出産後にホルモンバランスが戻っても、破壊された骨はそのままです。つまり、妊娠中のケアを怠ったことが、将来的に歯を失う原因となる「歯周病」という、不可逆的な病気の引き金を引いてしまうことになるのです(身体的デメリット)。
  • お腹の赤ちゃんへのリスク:早産・低出生体重児 これが、私たち歯科医師が、妊婦さんに口腔ケアの重要性を最も強く訴える理由です。近年の数多くの研究により、お母さんのお口が重度の歯周病(歯周炎)に罹患している場合、そうでない健康な妊婦さんに比べて、「早産(妊娠37週未満での出産)」や、「低出生体重児(2500g未満の赤ちゃん)」を出産するリスクが、数倍(一説には7倍とも)にも高まることが、統計的に明らかになっています。 なぜ、お口の中の病気が、早産などに関係するのでしょうか。そのメカニズムは、歯周病菌が歯茎の血管からお母さんの血流に入り込み、全身を巡ること。あるいは、歯周病の強い炎症によって産生される「炎症性物質(サイトカインやプロスタグランジンなど)」が血流に乗り、胎盤や子宮に到達することにあると考えられています。これらの炎症性物質が、子宮の収縮を促し、陣痛を誘発してしまうのではないか、と推測されているのです。このリスクの大きさは、喫煙やアルコール摂取、高齢出産といった、他の早産リスク因子と比較しても、同等か、それ以上に高いとさえ言われています。 「歯医者さんが怖いから」「つわりが辛いから」と、お口のトラブルを我慢し、放置してしまうことが、結果として、あなたが最も大切に思っている、お腹の赤ちゃんの健康な誕生を脅かすことに繋がってしまうかもしれないのです(精神的デメリット)。

4. 「つわり」で歯磨きが辛い…そんな時の口腔ケア対処法

妊娠性歯肉炎の恐ろしさは分かったけれど、「そうは言っても、つわりが辛くて、歯ブラシを口に入れることすらできない…」という妊婦さんの、切実な声もよく分かります。歯科衛生士として、そんな辛い時期を乗り切るための、具体的なケアの工夫をご紹介します。無理は禁物ですが、「ゼロ」にするのだけは避けましょう。

  • ①「磨ける時」に磨く 「食後すぐ」というルールに、無理にこだわる必要はありません。「朝起きてすぐ」や「お風呂に入っている時」など、ご自身の体調が比較的安定している「磨けそうなタイミング」を見つけて、1日のうちに必ず1回は、丁寧な歯磨きタイムを設けましょう。テレビを見ながら、といった「ながら磨き」でも構いません。
  • ②「歯ブラシ」を工夫する 吐き気を催すのは、歯ブラシのヘッド(頭)が、舌の奥などに触れることが刺激になるためです。できるだけ、ヘッドが小さい「コンパクトヘッド」や、毛先が1束になった「タフトブラシ(ワンタフトブラシ)」を活用してみてください。これなら、奥歯に入れる際の不快感を、最小限に抑えることができます。
  • ③「歯磨き粉」を工夫する 歯磨き粉の「味」や「香り」、「泡立ち」が、吐き気の原因になることも非常に多いです。その場合は、
    • 香料やミント感の少ない、低刺激性のものを選ぶ。
    • 泡立ちの少ない、ジェルタイプやフォーム(泡)タイプのものを選ぶ。
    • いずれもダメなら、歯磨き粉をつけずに、水だけで磨く(から磨き)。 これだけでも、プラーク(細菌)の大部分は除去できます。磨かないより、100倍マシです。
  • ④「うがい」を最大限に活用する どうしても歯ブラシが無理な時は、「ぶくぶくうがい」だけでも、しないよりはずっと良いです。特に、吐きづわりの方は、胃酸(強酸性)が逆流することで、歯の表面が溶けてしまう「酸蝕歯(さんしょくし)」のリスクも非常に高くなります。吐いてしまった直後は、すぐに水や、低刺激性の洗口液(マウスウォッシュ)、フッ素入りの洗口液などで、よく口をゆすぎ、お口の中を中和することを心がけてください。(※ただし、吐いた直後に歯ブラシでゴシゴシ磨くと、酸で柔らかくなった歯の表面を削ってしまうため、30分ほど待ってから優しく磨くのが理想です)。

5. 妊婦さんこそ歯科医院へ!安定期に受けるべき「プロフェッショナルケア」

ご自身のセルフケアが困難になる妊娠中だからこそ、私たち専門家による「プロフェッショナルケア」のサポートが、絶対に不可欠です。

  • 受診のベストタイミング 前述の通り、つわりが落ち着き、体調が安定する「妊娠中期(安定期)」(妊娠5ヶ月~7ヶ月)が、歯科受診のベストタイミングです。
  • 妊婦歯科検診の活用 お住まいの自治体(姫路市など)によっては、妊婦さんを対象とした「妊婦歯科健康診査」を、無料または一部負担金で実施している場合があります。母子手帳と一緒にもらえる受診券などを、ぜひご活用ください。
  • プロケアの具体的な内容とメリット
    1. お口の状態のチェック:歯茎の炎症の程度、プラークの付着状態、むし歯の有無などを、専門家が詳しくチェックします。
    2. 専門的なクリーニング(PMTC)と歯石除去:歯科衛生士が、ご自身では落としきれないプラーク(バイオフィルム)や、歯茎の炎症の原因となっている「歯石」(プラークが石灰化したもの)を、専用の器具を使って徹底的に除去します。これだけでも、歯茎の出血や腫れは、劇的に改善します(身体的メリット)。
    3. 個別のブラッシング指導(TBI):つわりの時期のケア方法も含め、現在のお口の状態と、妊婦さんご自身の磨き方の癖に合わせた、最適なセルフケア方法を、一緒に練習しながらアドバイスします。
    4. 必要な治療の実施:もし、歯肉炎だけでなく、進行したむし歯や、骨が溶け始めている「歯周炎」が見つかった場合でも、この安定期であれば、安全に治療を行うことが可能です。治療に必要なレントゲン撮影(防護エプロン着用)や、局所麻酔、安全性の高いお薬の処方も、お腹の赤ちゃんへの影響を最大限に考慮した上で行います(詳しくは、前回のブログ「妊娠中も歯科治療できるの?」もご参照ください)。痛みを我慢し続けるストレスの方が、母体にも胎児にも悪影響です。
    5. 安心感の獲得:専門家にチェックしてもらい、「大丈夫ですよ」「こうすれば良くなりますよ」とアドバイスを受けることで、「自分のお口は大丈夫だろうか」という漠然とした不安が解消され、安心して出産に臨むことができます(精神的メリット)。
    6. 費用について:妊婦歯科検診や、歯肉炎・歯周病の治療、クリーニングは、原則として健康保険の適用内で受けることができます(経済的メリット)。数千円の自己負担で、将来の早産リスクや、ご自身の歯を失うリスクを減らせる、非常に費用対効果の高い「投資」と言えるでしょう。

6. まとめ

妊娠中のお口のトラブル「妊娠性歯肉炎」について、その原因と、放置するリスク、そして具体的なケア方法をご理解いただけましたでしょうか。

  1. 妊娠性歯肉炎は、ホルモンバランスの変化や、つわりによるケア不足で、歯周病菌が増殖し、歯茎が炎症を起こす病気。
  2. 「歯磨き時の出血」は、その危険なサイン
  3. 放置すると、お母さん自身の歯周病が進行するだけでなく、「早産」や「低出生体重児」のリスクを高めるなど、お腹の赤ちゃんにも悪影響を及ぼす。
  4. つわりが辛い時期は、「磨ける時」に「ヘッドの小さな歯ブラシ」で、「水だけ」でも良いので、ケアをゼロにしないこと。吐いた後は、うがいを。
  5. セルフケアが難しい妊娠中こそ、「安定期」に歯科医院を受診し、専門的なクリーニング(プロケア)を受けることが、母子の健康を守る鍵。

妊娠性歯肉炎は、「妊娠中だから仕方ない」と我慢するものではなく、「適切なケアと治療で、必ず改善できる」病気です。そして、そのケアは、お母さんご自身のためだけではなく、生まれてくる大切なお子様の健康な誕生への、最初のプレゼントでもあります。

私たち溝井歯科医院は、妊娠という、人生で最も素晴らしい時期を過ごされているお母さん方を、お口の健康という側面から、全力でサポートさせていただきます。兵庫県姫路市で、妊娠中のお口のトラブルにお悩みの方は、どうぞお一人で抱え込まず、お気軽にご相談ください。

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